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松本文六理事長の一言

松本文六理事長の一言

医事新報

                                  医療法人財団 天心堂    理事長 松本文六

 

 私たちは、昨年12月21日、シンポジウム-『脳死・臓器移植をめぐる人権・文化・社会』-を東京文京区で開催した。

 1994年4月12日国会に上程された『臓器移植法案』は、秋の国会解散で廃案となった。しかし、中山太郎議員を筆頭とする生命倫理研究議員連盟は、修正案を掲げて再び国会に議員立法として上程した。この行為は、私ども『臓器移植法案』に反対する者にとっては、大変な衝撃であった。

 『臓器移植法案』上程以前より私たちは多くの問題提起を行ってきた。又、反対の論旨を数回以上に亘る国会議員会館での勉強会で明らかにし、その折に法案の問題点を指摘してきたが、今回の再上程は、私たちの意見を一顧だにしていないからである。何冊もの冊子を厚生委員会のメンバーに配付し、手分けして彼らに会い意見交換をしたが、結果としては、全くの"のれんに腕押し"であった。脳死を考える委員会の阿部知子氏は、このような事態を予測して先の参議院議員選挙に打って出たが、当選には程遠かった。又、解散後の選挙で『臓器移植法案』に絶対反対の狼煙をあげられていた東北地区出身の自民党の古武士志賀節氏も敗れてしまった。

 このような状況の中で、私たちはどうすればいいのか、又私たちに何ができるのか? ということで、今回のシンポジウムを開催した。

 藤井正雄大正大学教授からは、宗教学の立場から『臓器移植法案』は日本人の身体観・遺体観が西欧のそれとは決定的に異なるが故に社会的コンセンサスさが得られ難いと主張された。粟屋剛徳山大学教授は、諸外国の臓器売買と死刑囚からの移植について具体的現場写真を多数示した上で、人肉食(カニバリズム)の危惧を訴えられた。又、臓器移植の思想的背景には、①生命功利主義 ②物的人体論 ③自己決定の原理の三つがあることを指摘された。

 大阪の弁護士冠木克彦氏は、関西医大での脳死早期判定早期摘出事件を例にあげ、大阪で、「脳死」臓器移植による人権監視委員会を結成したことを報告するとともに、全国的ネットワーク形成に向けてのアピールをされた。

 私は、昨年6月20日に行われた福岡市での公聴会の意見陳述について報告し、再度、脳死を前提とする臓器移植は《他人の死を前提とする医療》であり医師として又人間として医療として認めることはできないと主張した。又、日本大学付属病院での救命救急治療で竹内基準では当然脳死と判定されるようなケースが救命されている例を挙げ、脳死はヒトの死でない、更に、反対派の論理は人体の医療資源化を促進するものであって認めることはできないと主張した。更に推進派が反対派は《影の部分のみを増幅し、光の部分を意識的に見ようとしていない》という指摘に対し、第2次世界大戦に突入したのは影の部分を指摘してきていた知識人を社会的に抹殺したからではなかったのか、今、『臓器移植法案』の再提出ということに象徴される政治状況は極めて危険であると私は主張した。

 ささやかな反対派の会合であったが、この反対の狼煙を燎原の火のようにするにはどうすればいいのか、是非皆様のお知恵をお貸し下さい。

                                                                         (1997.1.10)

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